大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和31年(ラ)55号 決定 1957年4月20日

抗告人(被審人) 高知双葉講

主文

原決定を取消す。

本件を高知地方裁判所に差戻す。

理由

本件抗告の理由は別紙の通りである。

よつて案ずるに、本件の様に労働者が固定給の外に諸手当を出来高払制で支払われていた場合に、労働基準法第十二条第一項、第二十条第一項本文に準拠して受くべかりし給与相当額を算出することは、まことに相当であつて、抗告人の言うが如く固定給のみを基準として之を算定すべきでないと解する。抗告理由は採用し難い。(尤も平均賃金は同法第十二条第一項本文によつて算出した金額と同項但し書により算出した金額とを比較し、その高きに従うべきである。記録十七丁の請求書の計算は之によつているのに、原決定が之を却ぞけ同項但し書による計算をしているのは、その理由を諒解し難い。)

然かしながら、過料は刑罰でないけれども行政罰として一種の制裁であるからその制裁を受ける対象は自然人か法人に限るものと解すべきであるところ、原決定により過料に処せられた高知双葉講は果たして法人であるかどうか記録上明らかでない。(民事訴訟法上、当事者能力を認められているからと言つて直ちにその者か制裁の対象であるとは認められない。労働組合法第二十八条の罰則の如きは法人にさえ適用出来ぬ。)

従つて抗告人が法人であるかどうかの点(若し法人でなく組合であるとすれば前記の通り組合員を制裁の対象とせねばならぬ)を十分調査すべきものと認められるから、民事訴訟法第四百十四条第三百八十九条により原決定を取消し本件を高知地方裁判所え差戻すこととする。

(裁判官 三野盛一 加藤謙二 小川豪)

(別紙)

抗告人の抗告理由

一、事実関係に就ては、原審裁判所決定理由書記載通りにつき、茲に之を援用し重復を避け、高知地方労働委員会が、本件有藤利子を被審人講会が昭和三十年八月二十四日解雇したるは不当労働行為なりと認定して、其の解雇の取消しを命じたる行政処分に対しては目下高知地方裁判所に於て同庁昭和三十年(行)第一号事件として(行政命令取消の訴)繋争中である。

其の取消の理由とする処は、前記有藤が集金人として講掛込金の横領を為したること及び勤務過怠の事実を請求原因とするものである。

二、而して抗告人は、高知地方裁判所より昭和三十年十二月二十七日高知地方労働委員会申立による緊急命令を許容して

(一) 解雇の取消、竝びに昭和三十年八月二十五日以降解雇取消に至る迄の間受け得べかりし給与相当額を支払うと共に解雇当時と同一の賃金その他の待遇をしなければならない。

(二) 本命令交付の日から五日以内に高知新聞夕刑に解雇取消広告をしなければならない。

旨の命令を受け、抗告人は直ちに右命令に従い、即時有藤利子を復職せしめ、且つ難きを忍びてその謝罪的広告文を高知新聞紙上に掲載したものである。

三、抗告人は、有藤利子に対し従来支給しありたる固定給月四千円也及び自転車手当五百円也を昭和三十年八月二十五日以降の分を計算して支払い、尚有藤受領拒否の分は供託の手続を為したるものである。

固定給の四千円也は当然とするも自転車手当なるものは解雇中は自転車を使用せず従つて一応支払いの必要なきものと考えしも、集金手当に相当する金五百円也は抗告人に於て給与相当額に含まれあるものと解し、命令遵守の意味に於てその支払いを為したるものである。

四、然るに原審決定によれば、更にその募集手当(出来高歩合金)をも計算し、即ちその得べかりし不確定利益をも計算して支払うべき旨の決定を受け、その支払義務の適条法文として労働基準法第十二条第一項第一号の平均賃金に関する規定を援用しあり。

此の点に就ては抗告人に於て甚しく不審に存しある次第であつて、前記平均賃金に関する規定は、同法の退職慰労金(法第二十条)休業手当(法第二十六条)有給休暇(法第三十九条)災害補償(法第七十六条以下)制裁減給(法第九十一条)等に算定すべき基準規定であつて、本件の如く解雇の取消訴訟繋争中に緊急命令を以て復職したる者に対する遡及給料の基準を定めたる規定にあらざるものと思料さる。何んとなれば前記の如く法第十二条第一項第一号の平均賃金は、孰れも任意退職の場合か就職中災害若しくは休養したる場合等の支払補償金又は賃金の基準を定めたる規定であり仮処分的命令を以て復職したる者の基準賃金を定める規定にはあらず、従つて法第十二条を適用して抗告人を問擬するは失当なりと言わざるを得ず。

故に此の場合抗告人は固定給四千円也及び自転車手当五百円也の支払いを以て足り、募集手当(出来高歩合)迄は支払う必要なきものと存する。

五、抗告人は、本件の如き緊急命令を受けたるは初めてであり(極めて小規模の講会で従業員六名)有藤利子に対するその支給額等に就て疑義ある場合はすべて高知労働基準監督署に聞合せて支払い来りたるものであり、本件緊急命令は「解雇取消に至る迄の間受くべかりし給与相当額を支払え」とあるのみにて極めて抽象的であり、具体的にその支払金額又はその相当額算定方法等を明示せずして直ちに労働組合法第三十二条違反として処罰するは著しく苛酷且つ失当なりと思料さる。

何んとなれば、若し命令が給与相当額算定につき具体的に指示されありしなれば抗告人は何時にてもその支払いに応ずる用意あるものであります。

いずれにしても本件決定は不服につき即時抗告申立致します。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例